【うそばなし】植物園の話

この前から「言うとやるとは大違い」という話をしていて、何故か脳内うそばなしフォルダがあふれました。そんなわけで以下は日記でなくて掌編です。植物園の話。
 冬の植物園は、冬晴れの光の中で普段よりも広いような気がする。そんなことを考えながら、子供らしきものを背中につけて歩いていく。誰かに見られたら、遊びに付き合ってやっていると思われるだろうか。そう思ってあらためて周囲に目をやると、動いているものは自分たちしかいないことに気付く。
 普段、何かを背中に貼り付けて歩くような趣味はない。入った時には一人だった。プレートを付けられた植物を眺めながら、折り返し点になる針葉樹の林に着く。舗装された道をはずれ、手近な木に手を回してしばらくもたれかかる。しばらくそうしているうちに、背中に違和感があることに気付いた。妙に温かい。いつの間にか子供か何かが背後にぴったりくっついているようだ。害意はなさそうだと判断し、振り向かないまま意図を聞いてみた。
 返答はなかったが、気配が少し変化した。かたくなさが伝わってくる。その心持ちにうっかり共感してしまった。それでも返事はせずに、もたれていたままの木から離れる。わたしは針葉樹とは違って、いつもまっすぐに立ってはいられない。たぶん、背中によくわからないものをはりつけたまま過ごしたりするのはそのせいだろう。
 そのままいつもと同じように、ゆっくりと園内を見て回る。背中の気配は静かについてくる。足音がしないのがどうも気になるものの、花がつきはじめた梅園に着いたので考えないことにした。そういえば背後の気配はせいぜい背中の中ほどまでしか感じられない。花がちゃんと見えているといいけれど。梅園を抜けて、高く伸びたメタセコイアにさわってから出口に向かう。誰か(何か)は相変わらずついてくる。生来のいいかげんさで許容してしまったが、連れて帰るわけにもいかない。どうしたものか。このままではうかうか椅子にも座れない。「背中にこぶつきだとできること/できないこと」を考えているうちに出口に着いた。そのまま門をくぐって狭い道に出る。さてどうしたものかと思案したところで、唐突に背中の気配が離れた。厄介に思ったのが伝わったのだろうか。取り返しのつかないことをしてしまったのだろうか。そう思うと同時に、背後から何事か声が聞こえ、そのまま気配は消え去った。
 ぐるりを見渡してから、駅までの道をたどる。動いているものは自分しかいない。